【読書感想レビュー】『私たちの世代は』/優しい世界を感じられる一冊

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瀬尾まいこさん著の『私たちの世代は』は、新型ウイルスによる感染症禍の中、さまざまな制限を受けてきた少女二人が、小学校3年生から大人になるまでのストーリーです。

『私たちの世代は』という余韻を残すタイトルと、2本のラムネ瓶が並ぶ涼し気なカバー写真が印象的で、書店で目を惹かれました。

あの制限された生活で私たちの中で変わってしまったもの。
次第に日常生活を取り戻しつつある現在、その記憶は、次第に薄れてゆきます。

『私たちの世代は』は、制限された生活で子どもたち、大人がどう変わってしまったのか。変わらないものは何だったのかを考えさせられる作品でした。

今回、『私たちの世代は』の感想レビューをお伝えします。

『私たちの世代は』とは

『私たちの世代は』は、『卵の緒』『幸福な食卓』『そして、バトンは渡された』などの作品で多くの文学賞を受賞された、瀬尾まいこさんの長編小説です。

『私たちの世代は』は、瀬尾まいこさんの読みやすく丁寧な文章、優しい世界観が魅力の本です。

『私たちの世代は』
瀬尾まいこ著
2023年7月25日発行
株式会社 文藝春秋出版

『私たちの世代は』あらすじ

『私たちの世代は』は、小学3年生の女の子、岸間冴(きしまさえ)、江崎心晴(えざきこはる)が大人になるまでのそれぞれのストーリーです。

新型の感染症が広がる中、学校が一斉休校となり外出もままならず、不自由を強いられた二人。

出会ったこともない二人は、それぞれ悩み、苦しみながら成長してゆきます。

そして、大人になった二人は就職試験で出会い思いがけず心を通わせることに。

感染症が広がる世界で、冴と心晴、それぞれの家庭環境、悩み、周りの人々との関わりがどうなったのか。

感染症の世代の二人は、将来をどう進んでゆくのか。

『私たちの世代は』を読みすすめるにつれ、私たちが経験したことが次々と思い浮かんできます。

『私たちの世代は』で心に響いたもの

感染症が広がる世界で戸惑う子と親の葛藤

新型ウイルスによる感染症による一斉休校。外出自粛、マスク必須となった世界。

テレビからは感染者の情報ばかり流れ、世界の雰囲気はどんよりとした曇り空のようだった当時。

学校に行けず友達とも会えない日々は、子どもたちにとっても、親にとっても想像以上に不自由なものでした。

学校の代わりに、子どもに色々な経験を家でさせてあげたいと思う親。

その親の想いを負担に感じ、疲れてしまっている子供たち。

「思いっきり運動場を走ったり、友達の思いがけない発言に笑ったり、先生に怒られたり、友達と秘密の話をしたり。パソコンの中にはない、あのどきどきとわくわくがほしいのだ。」

「お母さんが笑みを浮かべるたび、そんなこと望んでなんかないのに、と心のどこかでふつふつとした苛立ちが生まれそうになった。」

『私たちの世代は』第1章

私自身も当時子どもたちが他の子より遅れてしまわないように、家でできることを必死で探していたことを思い出しました。

でも、何をしても浮かない表情の子どもたちに、親として途方に暮れた日々。

『私たちの世代は』では、感染症禍で揺れる子供と親との心の葛藤が丁寧に描かれており、あの頃の辛さをひしひしと思い起こさせられます。

「優しいおせっかい」の世界が広がる

『私たちの世代は』では、見返りを求めずただ相手のことを思い遣る世界が描かれています。

・親からネグレクトされた少年蒼葉に毎週パンを届け、一人じゃないと伝えた冴親子。

・いじめを受けた冴を、全力で助けた蒼葉。

・近所の困っているお年寄りをさりげなく支える冴の母。

・不登校となり家から出ない心晴から離れずに支え続けた、家庭教師。

・SNSの世界で、不登校同士言葉のやりとりでささえ合う心晴とカナカナ。

『私たちの世代は』に登場する様々な人物が「優しいおせっかい」をして、その優しさが連鎖していく世界観に引き込まれました

「子供たちをとりこぼさないで」のメッセージ

夕暮れの中に立つ2本の木の写真

感染症が広がっていた中、たくさんの制限を受け、我慢をしてきた子供たち。

様々な環境で育つ子供たちは、大人が気付かないまま、傷やしこりを持ち続けているのかもしれません。

「取りこぼさないで。毎日が不安な子どもがいることに気づいて。あの時小学生だったわたしは、大人たちに願っていた」

『私たちの世代は』第3章

子どもたちは、育つ環境を選べない。

辛い経験をしている子どもたちにも未来が明るくあるために、私たちができることをいつも意識していきたいと思いました。

物語にあふれるあたたかい言葉たち

四葉のクローバーの写真

『私たちの世代は』では、あたたかい言葉たちがたくさん書かれています。

特に、私が好きなのはこの台詞です。

「愛とか幸せとか形がないっていうけど、冴が生まれて、おお、愛と幸せの塊が目の前にあるって、愛ってちゃんと見えるんだって思ったんだ」

『私たちの世代は』第二章

夜の仕事をしながらシングルマザーとして冴を大切に育てた、冴の母が冴に言ったこの言葉。

子どもが「愛と幸せの塊(かたまり)」。

子どもが生まれることは本当に奇跡だということ、ずっと忘れないでいたいと思いました。

それぞれの物語がひとつにつながってゆく

『私たちの世代は』に登場する人物たちは、それぞれを生きていますが、物語が展開するにつれ、ひとつの世界につながってゆきます。

まるで、夜空にあるたくさんの星が星座を作っていくように人々がつながるようで、物語の展開から目が離せませんでした。

『私たちの世代は』はこんな方におすすめ!

草原を歩く少女の写真

『私たちの世代は』を特におすすめするのは、

・感染症の時代に子育てを頑張った方

・今「生きづらさ」を感じている方

・とにかく心が温かくなるストーリーを読みたい方

です。

『私たちの世代は』は、辛いことをたくさん我慢した私たちの背中をそっと押して、優しい力を与えてくれます。

また、感染症の世の中を体験した今の子供たちが大人になったとき、『私たちの世代は』を読んでほしいです。

まとめ

青空の下で咲く花の写真

『私たちの世代は』を読んで私がこれから意識したいと思ったのは、

・言葉の持つ優しい力

・想いをきちんと言葉で伝える

・子供の未来を信じて応援し続ける

ということです。

「誰かと交わす言葉がどれだけ支えになるのかを、そしてその人と会える喜びが何ものにも代えがたいことを、知った」

『私たちの世代は』第4章

新型の感染症で人との関わりができなくなったあの頃だからこそ、言葉の優しさ、温かさ、人と話すことの喜びを感じられたのだと思います。

『私たちの世代は』は、瀬尾まいこさんの優しい応援メッセージがたくさん込められています。

ぜひ、『私たちの世代は』の優しい世界を味わってみてください。

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